花元孝二・完全貧困の勝利
花元孝二のように何も持っていない生活保護者は気楽そのものだ。毎日何にも縛られず自分の気分次第で生きられる。彼は一般人が考えるように他人に迷惑をかけたくないとも思わない。迷惑をかけるという意識がない。金があるとかないとかを考えていない。それでただ他人に何かを頼むだけである。
彼には失うものがない。財産も金銭もないから、あとは命だけだ。そういった点ではもしかしたら悟っているのかもしれない。つまり宗教家のように。だが花元孝二は教養も知恵も大してないからこの点は宗教家とは違うし知恵によって悟りを開いたわけでもないだろう。花元にとっては知恵も宗教もそんなものは要らないのである。自由こそ彼の道である。
深夜2時とか3時頃に成ると外を花元孝二がうろついている音がする。勿論その時間は私と花元以外誰も起きてはいないから彼は何をしようと他人には判らない。只ゴソゴソと外で何かやっている。家の猫ではない。家の猫はすぐそばで眠っている。
彼には僅かな電気が与えられている。それは携帯電話を充電するために私が電源のコードを道路まで出しているからだ。そうだ、花元孝二は全くの貧困者だがスマートホンを持っているのだ。この携帯電話料金は福岡で実家の母親が払っている。このことを考えると花元孝二は完全なる貧困者ではない。そうだ、彼は携帯電話という財産を持っている。
花元孝二がスマートホンを持っている為に完全貧困と言えなくなった。母親が少しは援助しているのでは。
「お前には世間体もプライドもない。笑われても罵られても平気だ。乞食のような生活もゴミだらけも恥じない。最後は母親に助けてもらうのか」
それでも彼は悩まない。
「350円貸してもらえんでしょうか?」
誰にでも言える。恥じない。貧困者にも総理大臣にも天皇陛下にも隣人にも恥じない。
「350円貸してもらえんでしょうか?」
「何なんだよ。お前は!」
「タバコ買いたいんです」
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